■[番外編]一時帰国と台湾
□2004年4月22日
□パキスタン・クエッタ

▼概要

機会に恵まれ、一時帰国中にまた台湾へ行くことができた。そして初歩の初歩ながら中国語を勉強することができた。そんなわけで、番外編となるが今回は案外知られていない台湾の話を記しておきたい。

▼中国語と台湾の言葉

「中国語」とは、台湾で言うところの「国語」であり、大陸、中華人民共和国の言うところの「普通話」のことで、北京語ともいわれる。厳密には中国語北方方言を元に作られた共通語だ。これが台湾、つまり中華民国の国語、共通語となっている。
一方、台湾の住民の多くは300年前くらいに現在の福建省あたりから渡ってきた人で、その人たちの母語は台湾語と言われている。台湾語は北京語と文法的に同じで、広義の中国語の一方言だ。従って台湾人にとって両方の言葉を話すことはさほど困難なことではないそうだ。
その他台湾には客家という人たち、戦後大陸から渡ってきた人たち、そして漢民族が来る前からすんでいた先住民たちがいる。
現在、台湾の小学生は大変だ。中国語に英語、それに家ではなされる言葉(台湾語、客家語、先住民語など)三カ国語を学校で学ばなければならないのだから。これは部族語、スワヒリ語、英語を自在に使い分けるケニア人並の多重言語社会だ。日本の小学校でアイヌ語教育が始まったという話は未だに聞かない。
台湾語にはいわゆる反り舌音がなく、のぺっとして温暖な感じがある。南方の島らしい響きだ。ちなみに台湾語には日本の植民地時代に入った単語が混ざっている。死語となりつつあるがウンチャンなどである。パン、テンプラ、ビールなども台湾語だが、これは日本時代以前に直接オランダ、ポルトガルなどから直接入ったものかもしれない。
いま台湾語は方言と言ったが、方言と言ってもお互い通じるようなレベルではない。中国語で言う四声(軽声を含めて5種類)は台湾語では8種類(軽声含む)もあるのだ。でも当の台湾人に声調について聞いてもいまいちぱっとした答えが返ってこない。考えてみたこともない、という反応だ。
これは日本語のアクセントに当てはめてみればわかりやすい。外国人が日本語学習で苦労する一つにアクセントがある。「辞典」と「自転」では抑揚が違う。「橋」と「箸」が違うのも有名な話だ。実際外国人向けには「日本語アクセント辞典」なるものまで売られていることはあまり日本人には知られていないだろう。

さて、台湾の国語と中国(大陸)の普通話は何が違うのか。一番素人にも明らかな違いはその表記だろう。台湾ではご存じの通り、昔ながらの漢字、繁体字が使われている。日本でも戦前には使われていたものだ。それに対して、中国では簡体字という非常に簡略化した文字が使われている。
前にも紹介したが、「豊」という字はなんと横三本に縦一本。通称「電信柱」になってしまう。全く想像もつかない。(繁体字「豐」を知っていれば比較的想像がつきやすい。)
そして中国語を学ぶ際、大きく違うのが発音表記だ。
大陸では現在ピンインというアルファベット表記になっている。北京の名前はなぜPekingからBeijingに変わったんだ?と真剣に聞かれたことがあるが別に中国語での発音が変わったことはない。このBeijingが現在中国で使われている方式のアルファベット表記である。
これは非常に強力な表記法で、慣れれば慣れたで、ある意味わかりやすい。しかし驚く事なかれ。現在このピンインは中国の小学校で中国語を教える際にも使われているそうだ。
つまり彼らは漢字より先にアルファベットを習得しなければならないと言う。
ピンインの欠点は縦書きができないこと。しかし強力な政府の元、その問題も解決済みだ。答えは単純明快。横書きに統一されていて縦書きは存在しないとのこと。つまり漢詩だろうとなんだろうとすべて横書きになっている。過激というか、割り切っているというか。

一方台湾では注音符号という記号が中国語の発音記号になっている。これは日本語のカタカナに近いもので(実際カタカナにヒントを受けて創作されたそうだ)、漢字の一部分を持ってきたような符号だ。わかりやすい利点は縦書きできること。そして後述するとおり、この方が借り物のアルファベットより遙かに中国語の音韻体系に合致している点がある。
これは入門者にとっておおきなメリットとなる。台湾の小学生は全員この注音符号を勉強してから漢字を習う。私もこれに従い、注音符号から勉強を始めた。

中国語の音韻は3つの部分に分けて考えることができる。「子音」「介音」「母音」である。(母音の部分は〜n、〜ngというところまで含む)(介音は日本語で言うkya,kyu,kyoのyに当たるような音)。たとえば「会」という字の音はh-u-eiという構造になっている。従い、注音符号ではh,u,eiに当たる文字三つで表記される。ところがピンイン表記ではeの音が聞こえにくい(?)という理由でhuiと表記される。そんなわけで日本人がフイと読んでも通じないと言った事態がおこる。
もう一つの問題はピンインを単なる記号として読めばいいのにどうしても英語風の発音につられてしまうことだ。たとえば「子」はズという発音だが、ピンインでは「zi」になる。この点に関して言えば、ズの母音をiの字で代用することは音韻学的に言っても整合性があるそうだが、そんなことを言われても「ジ」とつられてしまうのが紛らわしい。quは「チュ」と読みたくなるが、正解は口を平たくした「チヰ」みたいな発音になる。というのは実はuには二種類の発音があり、uの上に二つ点々がついたものとつかぬもがあるのだが、実際にはこの点々がしばしば省略されるからだ。慣れるまで混乱を招くことは否めないだろう。さらにピンインには語間の区切りがわかりにくい欠点もある。西安はxi-anだが、xianと書くと別な音になってしまう。辞書を引くとき、ABC順なのもかなり違和感がある。zのなかにzhが紛れ込むような順番になるからだ。注音の辞書ならbpmfの順なのでとても引きやすい。

もちろんそれでは注音符号が完璧かと言えば、そこまで出来がいいとも言えないらしい。
ピンインで「e」に当たる音は「あ」の口で「え」を発音するといった日本語から見ると中途半端な音なのだが、この音とピンインで「o」に対応する音は音韻学的には同じものだからだそうだ。今紹介したようにピンインでも同じ音韻を違う符号で表記しているわけだけど、この事情は注音でも同じで、似ているが別符号だった。
この辺をクリアーにして、もう少し創造的な文字ができるといいだろう。もちろん手本となるのはハングルだ。

いずれにしても親英語圏というだけで独自のものが消えていくのは見ていて非常につらい。ベトナムなどももう少しがんぱって独自の文字を制定できなかったものなのだろうか。
各音韻体系にはそれぞれ最適な文字があり得るはずと言うのが持論だ。日本語はあいにくこの線で言ったら劣等生だけど。
台湾もアルファベット表記の議論でもめたりしないで、世界に残った繁体字と注音符号をもっと世界にアピールしてもいいのではないだろうか。

▼伝統と簡略化

伝統的なものはとかく複雑でわかりにくい。新しいもの、簡略化したものは取っつきやすく、簡単だ。しかしそれでもあえて私はもっと伝統や文化を大切にするべきではないかと思う。貧しい「プロレタリア」を抱えた中国が漢字の簡略化を進めたのはやむ得なかったのかもしれない。しかしそのために大切な文化や意味がごっそり失われてしまったことも確かだろう。
英語という言語は今、二つに分化しているそうだ。ネイティブがつかう英語と世界共通語としての英語だ。共通語としての英語はどんどん簡略化され、発音も大まかになり、文法の誤用とかも許容されていく。私はそれには賛成だ。言葉なんて通じればいいのだから。
でもかといって豊かな文化が消えていくのには納得がいかない。多少の不便は承知で、いろいろなものがあるから世界はおもしろいのではないだろうか。

▼独立か統一か

3/20に行われた台湾の総統選は世界でも稀な大接戦で、たったの3万票差で民進党の陳水偏氏が再選を果たした。選挙戦を通じて若干不利が伝えられた陳水偏は選挙直前に何者かによって銃撃を受け、幸か不幸か瀕差をくつがえしてしまった。
対立候補の連戦氏らは再選挙を訴えた。銃撃事件の真相解明がないまま、これを受け、国民党の支持基盤であった警察が大動員された中での選挙だったからだ。かれらの多くが投票できなかったという。膨大な無効票にも胡散臭さがある。

私個人の意見を言わせてもらえれば、台湾は独立してよい。というか、現在でも事実上は独立している訳だが、中国・国際社会がそれを認めていないだけである。こんな国は世界を探しても見あたらないだろう。人口2200万を有した民主国家が世界からのけ者にされ、国連やWHOにも入れさせてもらえないのだから。
と言っても始まらないので、ここでは日本ではなかなか知られていないをいくつか記したいと思う。

まず、外省人・内省人という区別だが、現在の台湾では日本で語られるほど差別も支持政党に違いはない。どちらの出身であれ、国民党支持者もいれば民進党支持者もいる。その差をあおっているのはむしろ選挙や政治家だ。
それから台湾人の大陸への渡航は現在とても簡単だ。直行定期便が無いということがネックといえるが、それとて近い将来実現するだろう。
台湾からの投資や、それに伴う大陸への駐在も非常に盛んだ。実際、大陸に飛ばされそうだと心配している台湾人を何人も知っている。
では軍事的にはどうなのか。実際大陸に隣接する台湾側の領地、金門島に行ってみて驚いた。かつて最前線だった島は、観光で成り立つのどかな離島になっていたからである。
最前線の展望台へ行くと、手に取るような距離に大陸側の島が見える。大声で笑いながら双眼鏡を見つめる台湾人観光客。そのレンズの先にあったものは。
大挙して観光船に乗り込み、金門島見物を楽しむ中国人観光客だった。
最前線風情が観光資源として抜けめなく双方の商人により活用されている様がおかしかった。

台湾と中国はもう事実上運命共同体になりつつある。中国はそれを知っていて黙っていつか吸収できる時を待っているのだろう。焦っているのはむしろ台湾の独立派で、ナショナリズムを煽り、台湾人意識をもり立てようとする。2008年の北京五輪前後が台湾の将来を決定づける分水領になるだろう。
台湾が独立を宣言した際、大陸が侵攻してくるというのが最悪のシナリオだ。だからこそ、中国が事を穏便に済ませたい北京五輪に独立派がターゲットを定める可能性は高い。

いずれにしても台湾の将来は住んでいる人が納得いく形で決まっていってほしい。そしてどんな結果であろうと戦争になったりしたら元も子もない。そして内部でいがみ合うことなく発展していってほしいと思う。それはもちろん可能だろう。いままでもいくつもの試練を乗り越えてきている国なのだから。

参考(注音符号)
http://www.tabiken.com/history/doc/L/L319L300.HTM
http://www.public.iastate.edu/~hirok/mystuff/hsiaoching/hatsuon/hatsuon.html

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