■タイトル インド料理
□文章作成 インド・デリー
□作成日時 2003年9月1日

▼インド料理

インドというと「カレーしかない」なんて言う人もいるけど私にとってインドは下手をすると中国に匹敵するのではないかと思われるほど豊かな食文化を持ったすばらしい国だった。香辛料の強い料理がもともと好きだったせいもあろうが、本当にインド料理は千差万別で、そしてお金さえ払えば信じられないくらいおいしいのだった。
それから完全にケミカルフリーな点もうれしかった。ベトナムからミャンマーに至るまでMSGに苦しめられた私にとって、インドは安心して全てのものが食べられる新天地だった。

▼インドカレー

インドと言えばカレーを思い浮かべる人が多いと思う。しかし実際インドには「カレー」というメニューは無かった。そのメニューのほとんどが日本で言うところの「インドカレー」だからだろう。インド料理お決まりのコースはターリーである。ターリーはそもそも大皿を意味するそうだが、日本で言うところの定食という意味でも使われていた。これさえ頼めば一式一通りのものを食べることができる。
大抵ターリーをたのむとダルと野菜の煮物が出てくる。ダルは小さな豆の一種で黄色いものが多い。これを煮込んで香辛料で味付けしたものだ。場合によってはダルフライと言ってどろどろのスープを炒めて出してくれる。品質は様々だが概して日本人の口にはなじみやすく、おいしかった。
野菜の煮込みはこれまた千差万別で地域差も大きいので一口には言えないが、ジャガイモが主体の場合が多かった。それにカリフラワーやトマト、あるいはグリンピースなどが入る。味付けもどろどろの汁主体のマサラから、野菜をソースに和えただけのように乾燥している場合もある。この野菜カレーは2品つくこともあり、またまた私の口によくあった。
そのほかほうれん草を煮込んだソースや豆主体のソース。さらに丸のままのトマトの中にチーズを積めたものまで実に種類も豊富だった。

▼主食1(米)

インドの主食は米だ。チャパティーのイメージが強いけど、米は私の旅した範囲ではほとんどの地方で食べることができた。
食堂などではチャパティー主体の場合も多かったけど、どうやら家庭では米を食べることが多いようだった。底なしの腹を持つサイクリストには米食はとてもありがたかった。
米の種類は細長くてぱさぱさしたインディカ米。もちろん質によって臭い匂いのするものから真っ白な銀舎利までいろいろそろっている。パサパサしたインディカ米はダルと一緒に食べるとお茶漬けのように腹に流れ込んでくるものだ。反面いくら食べても食べた気がしない。よってまた大量に流し込むことになる。
米はただ炊いただけの場合に加え、多少味付けされたり色や香りをつけ、油を通して出されることもあった。これはこれでとてもおいしかった。でも特に油に通された場合は胃にもたれるので注意が必要だ。

▼主食2(ルティー)

おなじみのチャパティー、ナンである。チャパティーは油を使わずに直火で膨らませた平たいパンだ。膨らむと言っても生地自体は膨らまず、紙風船のように両面の間の空間が膨らむだけで、これは客に出されるときには既にしぼんでいる。一方ナンと言われるものには何種類かあるようだが、一番典型的なのがタンドリーナンで、釜の内壁に生地を張り付けて焼いたものである。タンドリーナンの場合多少生地自体が膨らむのでいわゆるパンに近くおいしい。そのほかパロタと呼ばれる種類もあり、これは鉄板に油をしいて焼いたものだった。デリー近郊ではよくチーズや野菜など詰め物をしたパロタを食べることができた。軽食にちょうど良かった。
インドの食文化は想像以上に多彩で地域差があり、奥が深い。
また、名前も地域で微妙に意味が違っていたりした。カルカッタでルティーと言えばパロタの油をしかないバージョンで、プニプニした食感のものだったが、デリーで聞いてみるとルティーとはパンの一般名詞だそうだ。ナンと言えばタンドリーという釜で焼いたものかと思っていたらただ鉄板で焼いたものも差す場合があるようで、期待外れになってしまったこともある。
パロタもカルカッタやバングラデシュでは薄く薄く何重にも伸ばしてから焼いたもので、その層状の焼き上がりが食感に伝わったことが印象的だったが、デリーの近郊ではもちっとしたただの肉厚パンだった。

▼パンとパイ

イギリス式のパンもよく見かけた。ツーリスト向けの宿やレストランに限らず、地元の人向けの屋台などでもトースト、あるいは卵焼きでトーストをくるんで揚げたものまで見かけることがあった。ただそれ以外にもっとおいしい料理がたくさんあるのであまりパンは食べていない。
一方意外と悪くない保存食がパイだ。なぜかインドでは全く味付けされていないパイやラスクが売られていて、食事に困ったときに良く利用させてもらった。駅やバススタンドではゆで卵を挟んだパイなども良く売られていた。イギリスのミートパイの流れをくむものだろうか、なかなかおいしかった。

▼乳製品

インド料理は菜食主義。ベジタリアンが基本である。よく肉なしでここまで多彩なメニューを仕上げるものかと感心させられる。ただし乳製品はベジタリアンの範疇に入っている。
食後やチャパティーと一緒に食べるとおいしいのがクルド(ヨーグルト)だ。これは日本で言うプレーンヨーグルトとほぼ等しい。どろどろとしていて場合によっては少し酸っぱいので砂糖を加えると食べやすい。もちろん高品質のものはさほど酸っぱくないようきちんと発酵がコントロールされており、多少高級なレストランへ行けばきちんと裏ごしして出てくる。
一方ラッシーはクルドに水を加えて攪拌したような乳飲料だった。塩か砂糖で味付けされる。攪拌後の泡がぴちぴちしてたりするのはご愛敬だろう。これもおいしい嗜好品だ。ただし多少田舎に行くとこの手の乳製品は比較的手に入りづらかった。
それからインドのチーズも忘れてはならない。しばしばカレーの中にサイコロ状になったチーズが入っていた。これは意外とすかすかした歯ごたえで非常に軽くできている。日本の豆腐にきわめて近い。きっと動物性か植物性かの違いだけで科学的にはきわめて近い組成なのだろう。もちろんこれもとてもおいしかった。

▼チャイ

チャイの話も書かなければなるまい。インド風のミルクティーだ。こればかりはどこへ行っても飲むことができた。牛乳に多少水を加えたものを沸騰させ、そこに粗悪な粒状の茶葉を加え、煮込んで作られる。鍋で威勢良く沸騰させるのがコツなのか、客引きなのか。その後茶こしで茶葉を除き、小さなガラスのコップに入れて出してくれる。毎回客が来る度にいちいち沸かしてくれるのがうれしい。ちなみに作りすぎた場合、彼らは茶葉を濾した上で別容器に移していた。出過ぎるとおいしくないのだろう。
それからチャイの容器で忘れてならないのが素焼きの湯飲みだ。ちょうど大きめのおちょこくらいの物で、これで出された場合は容器を持ち帰ることができる。使い捨てなのだ。その美しさに魅せられてついつい素焼きのチャイに惹かれてしまうが、実は容器の保管状態が悪いからこれで飲むチャイは埃っぽい。まあそこが「インドの味」とも言えよう。

▼揚げ物

その他インドで食べられるものはいろいろある。プーリーは比較的小さな揚げパンで、非常に油っぽい。しかし選択の余地もなく、しばしば朝食として芋の煮込みと一緒に食べたものである。サモサは芋の煮込みをパン生地で三角形にくるんで揚げたもの。軽食、朝食にもってこいだった。 ドサ、イデゥリーは南インドが発祥らしいが、デリーなどでも容易に食べることができた。ドサは鉄板で大きくカラッと焼き上げた薄いパンだ。少しチーズが混ざっている感じがする。多少油っぽいが、食感がとてもいい。イデゥリーは東アフリカのウガリの様な食べ物でパサパサ、ザラサラした食感の大きな団子である。唯一あまり好きにはなれなかった食べ物の一つだ。

▼菓子

インドの茶菓子も種類は豊富だ。しかしそのほとんどが砂糖菓子で非常に甘ったるい。そして田舎町だとガラスケースの中には菓子と共に羽蟻やら蜂が飛び交っていたりする。ともかく非常に甘いことをのぞけば味はまたなかなか悪くなかった。白いものはたいていミルク味でざらざらとした粒状感と口の中でとろける感覚がミックスされ、幸せな気分になれる。ただしご存じの通りチャイも非常に甘いのでバランスがとれない。地元の人はよく水を飲みながら菓子を食べているが、この習慣にはなじめなかった。甘い茶菓子には渋いくらいの濃いお茶が合うと思うのだが。
丸い団子のようなものの中には軽く揚げて作られたものもあった。しかしこの手は甘さに加えて脂っこさのダブルパンチになるので、よほどおなかの空いたときでないと食べない方が賢明だ。

▼インド料理と値段

インド料理は概して値段に比例しておいしくなるように思う。
プーリーを食べてチャイまで飲んで10ルピー程度の所は決しておいしいとまでは言えない品質だった。ダルとご飯で15ルピーなんて場合もさほど期待はできない。しかしターリーで25ルピーも払うとそこそこ悪くない味に変貌する。悪くない味、とは自転車をこぎ腹を空かしていれば十分おいしく感じられるレベルだ。もう少しお金を出して50〜60ルピー程度でレストランで食事をしてみよう。多少おなかの調子が悪くともインド料理っておいしいね、と満足させられる。
そんな中、アグラでひょんな事からちょっと高級なレストランに入ってしまった。紳士的なウェイターとクーラーの効いた清潔な室内、リッチな客層にビビリながら頼んだのが100ルピーのターリーだった。こひれが信じられないくらい美味しかった。高いと言ったってたったの100ルピー。300円にも満たない価格でこれだけの質の料理が食べられるとは恐れ入った。そしてカレーやご飯を食べきるとすぐにお代わりを持ってきてくれるのだった。思わず食べ過ぎてしまう。なるほどこんなにおいしいものばかり毎日際限なく食べていたら太るはずだ。
一方話は飛ぶが、中国ではさほど値段と味が比例してないかったように思う。もちろん高級になれば野菜の切り方から使い方まで丁寧になるし贅沢になる。しかし結局は炒めるときの火加減さじ加減のバランスが料理の味を決める。いい腕を持った料理人は安食堂にもたくさんいると感じたものだった。事実たった2元の麺条に感動したことさえもあったし、一食10元弱の安食堂でさほど身なりの良いとは言えないようなおじさんが「こんなメシ食えるか!」と米飯を突き返しているのを目撃したこともある。味に関するこだわりや思い入れは、金銭的な豊かさ貧しさとは全く関係ないようだった。
そんな訳でインドで思ったのは、食事にもカースト制度が残っているのではないかという仮説だった。たった少しの価格差で、店を変えるだけで味と質が劇的に変わる。低価格の店で原料の質が多少悪くとも工夫次第でもっとおいしく作れるはずなのに、そう思わざるを得なかった。価格と共に全てにおいてこの国には越えられない壁が何重にも横たわっているような気がした。


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