言葉の散歩 2001.09.03

幸か不幸か暇つぶしをするような暇は今のところあまりない。でも最近読書並におもしろく、時間がたつことを忘れられる事を見つけた。辞書を使った言葉の散歩である。

実は旅に先立ち電子辞書を購入した。ちょうど手のひらサイズで国語、英和、和英辞書が入っている。購入に際しては値段の安いものにするか、有名辞書を収録した高級版にするかずいぶん悩んだが、高級版を購入。その価値は十分あったと満足している。
こんなところに書くべき事かわからないが、電子辞書の広辞苑が面白い。とにかく英和・和英以前に日本語のおもしろさ、知らない言葉に辞書の中を旅してしまう。言葉から言葉へのジャンプの気軽さも快適だ。

▼8月31日、知床岬に行くべきか悩んで羅臼町相泊のおじさんと話をしていたら叱られてしまった。

「二百十日を知らんのか!、毎年この時期はシケるんだぞ。岬まで行ってシケたら一週間は帰ってこれないからな!」

二百十日、恥ずかしながら知らなかった。そこで一日を終え、早速テントの中で広辞苑を引いてみる。

「にひゃくとおか【二百十日】
立春から数えて210日目。9月1日ころ。ちょうど中稲(なかて)の開花期で、台風来襲の時期にあたるから、農家では厄日として警戒する。秋の季語。」

なるほど。でも元々漁師の言葉では無かった様だし北海道では季節も微妙に違うのでは、と新たな疑問が生じた。とはいえ、もともと漁師をしていたおじさんのことだ、きっと実感として二百十日が生きているに違いない。何十年もの生活から実感の生じている事実の重みは大変なものだと思う。

▼今度は中稲(なかて)がわからない。

「なかて【中手】
1、早稲(わせ)と晩稲(おくて)との中間期に熟する稲の品種の総称。中稲。秋の季語。(2は略)」

なるほど。稲作民族として非常に基本的な言葉だった訳だ。こちらも無教養をさらけ出してしまった。恥ずかしい、、
さらに関連語彙にも発見がある。早稲田大学で知られる早稲田という地名には早く熟する品種の田んぼと意味があったのだ。なんとなく想像は付いていたが正確な意味は初めて知った。
そして「おくて」という言葉も元々の意味も知った。奥手は晩稲が転じたという。近世稲作が一般人の生活から切り離されたのと同時に、言葉も切り離れていってしまっているようだ。
しかし、さらに大和言葉で考えて見よう。いずれも訓読みで「おく・て」なのだから同じ意味に違いない。従ってどちらから転じたというのも不自然な気がした。今度は大和言葉の辞書がほしいところだ。

▼今度は知床でも続々と揚がっている「シャケ」を引いてみた。
「サケの転」とあったのでサケを引くと

「さけ【鮭・|C】
(アイヌ語サクイベ(夏の食べ物)からとも、サットカム(乾魚)からともいう)広くはサケ目サケ科のサケ。ベニザケ・ギンザケ・マスの一部などの総称。(後略)」

やはりアイヌ語だったのかと関心をそそられる。アイヌは実際サケの民と言って良いくらいサケと共に生活してきた。ちなみにアイヌ語では「さ(sa)」と「しゃ(sha)」の区別は無いとされている。サケとシャケの区別がないことはアイヌ語起源と考えればわかりやすい。
しかし「夏の食べ物」とはずいぶん実際のサケとかけ離れている気がする。サケは秋に帰ってくるのだから。それに確かアイヌ語でサケはカムイチプ(神・魚)として大切にされてきたはず。変だ。
しかしサケの乾魚を交易品として和人とやりとりしていた物と考えれば良さそうだ。確かに乾魚は保存食であり、アイヌが夏の食べ物と説明したとしても納得がいく。

ちなみに私の付け焼き刃的アイヌ語地名知識でもサクイベとサットカムの前半は類推ができたので紹介しよう。
積丹半島はshak-kotanで夏・村を意味すると言うことなのでshakは夏だろう。
札幌はsat-poro-petで乾く・大きい・川から来ていると言われている。(札幌の語源は諸説あり定説はない)札内のsat-nayも乾く・川から来ているそうなので、satが乾くという言葉と類推できた。しかし乾燥した魚だとsat-cepになるはずだからまだ納得には至らないところだ。今度はアイヌ語の辞書がほしくなってきた。

言葉の散歩も旅と共に続いていく。


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